重要文化財民家には、長い年月を掛けて蓄積されてきた
「地域ならではの生き方」が詰まっている。
香川県内には小比賀家住宅、旧恵利家住宅、細川家住宅、旧下木家住宅、旧河野家住宅の5件の民家が重要文化財に指定されている。この5件の内、「旧」の字が付けられている3件の民家は、所有者の手を離れ、建物が所在する基礎自治体や四国村ミウゼアムにより管理されている。そのため、香川県内で建設当初からの所有者の元で管理され続けているのは、小比賀家住宅と細川家住宅の2件のみである。現在、全国には重要文化財に指定されている民家は360件あるが、「旧」の字が付かないことを誇りに懸命に守り続けられている文化財所有者は多い。
それぞれの重要文化財民家は地域の歴史や建築技法と深く結び付き、その地域の水準を示す「ものさし」のような存在と言える。この一つ一つの「ものさし」が各地域の豊かさを伝える重要な役割を担い、各地域を理解する上で多くの情報を内在している。民家研究の権威として数多くの民家の保存に関わられた伊藤ていじは「民家は、その地方の身分証明書」と語るように、地方・地域を深く理解するためには民家は欠かせない存在と言える。

建築考01_守り続けてきたからこそ生まれた価値
住宅は消耗品なのか。住民はいつまで消費者でいるのか。
重要文化財に指定されている360件の民家も建設された当初は、ただの新築民家であった。この新築民家が世代交代を重ねながら大切に引き継がれてきたからこそ、歴史的な価値が付加され、時代の変化と共に失われた建築技術や貴重な材料が残されてきたからこそ重要文化財として保護される民家となった。もちろん、長い年月に耐えられる材料を厳選し、修理を繰り返すことができる工法を採用してきたからこそ、価値が失われなかったのだろう。
一方で、住宅・土地統計調査(1998年、2003年)によると、日本の住宅は建築後約30年で解体されており、国土交通省の国際比較資料によれば、アメリカでは約55年、イギリスでは約77年と日本の住宅寿命の倍近い数値を示している。また、国内の住宅は1981年以降に建築されたものが60%ほどを占め、1950年以前に建築された住宅は5%以下とイギリスの平均解体築年数に達する住宅がほとんど存在しないほど、住宅が消耗品となっている。これに対して、イギリスでは1950年以前に建築された住宅は40%を超え、住宅を適切に維持管理できる体制や築年数を重ねた住宅に対する価値観にも大きな違いが見られる。
平成27年度に内閣府で実施された「住生活に関する世論調査」によると、住宅を購入するなら「新築の一戸建住宅がよい」が63%、「新築のマンションがよい」が10%と新築住宅を選択したいと回答した国民が73%を占めている。新築を選択したい理由として「間取りやデザインが自由に選べるから」が66.5%、「すべてが新しくて気持ちがいいから」が60.9%と、まるで服を選ぶ時と同じような感覚で新築住宅が購入されているようにも感じる。さらに、平成30年の住宅・土地統計調査では、国内の総住宅数は6240万戸となっており、平成25年と比較すると177万戸(2.9%)増加している。この増加に伴い空き家は平成25年から29万戸増加し848万戸となり、住宅の飽和状態が深刻化している。
香川県では、平成30年の段階で48.8万戸の住宅があり、その内8.6万戸(18.1%)が空き家であり、全国の空き家率13.6%を遥かに超える数値となっている。さらに徳島県は19.5%、愛媛県は18.2%、高知県は19.1%と四国地方全体で極めて高い空き家率を示し、深刻な四国地方の課題となっている。こうした状況下ではあるが、平成31年に香川県立ミュージアムにて、東かがわ市とさぬき市の2市を対象に、衛星写真から茅葺屋根の形式を持つ民家の分布調査が実施された。東かがわ市では256件、さぬき市では531件、合計787件が確認された。茅葺屋根の形式を持つ民家の多くは明治期頃までは県内の各地域で建築されていたことから、県内全域で推測すると数千件の築100年を超える民家がまだまだ残されている可能性が高い。これらの建築と向き合うことができる最後の機会であり、我々は大きな岐路に立たされていると感じる。
こうした住宅が抱える問題を一人でも多くの方と共有することで、世代を超えて引き継がれてきた民家の価値や所有者の思いについて考え、改めるきっかけになればと願う。

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