建築考02_重要文化財民家の所有者の現状
平成28年にNPO法人全国重文民家の集いが207件の重要文化財民家の所有者へアンケートを実施(回答数は約100件)し、所有者の厳しい現状が見えてきている。アンケート時点の数値になるが、民家所有者は60歳以上が80%を占め、平均年齢も73歳前後と高齢化が進む。この所有者の内、約4割が年金のみが主な収入であり、残りの6割はサラリーマン等の職に就いており、不動産収入等で維持管理費を賄える所有者は全体の1割にも満たない。こうした厳しい経済状況の中、民家が所在する自治体へ譲渡されるケースも見られるが、民家を公開、活用しながら維持管理していくためには、民家の規模等にもよるが数百万円から数千万円の経費が必要となる。自治体所有の場合には、地域住民の理解を得るためにどのように還元していけるかが大きな課題となっている。理解を十分に得られない場合には、日常管理が行き届かなくなり、建物の劣化を招くという悪循環に陥る危険性が高い。また、所有者の多くは民家と共に先祖代々執り行われてきた各民家の伝統行事等も継承されている場合もあり、所有者が民家を手放すことにより、長年受け継がれてきた伝統行事も失わることになりかねない。
重要文化財の民家を適切に保護していくためには、所有者の厳しい経済現状に合わせて行政機関がサポートする必要がある。国の指定を受ける重要文化財については、国が保存修理等に必要となる経費を所有者の経済状況に応じて50%から85%まで補助し、残りの経費を都道府県、基礎自治体、所有者で補助・負担している。重要文化財民家を修理するには、現代の住宅では用いられることが無くなった材料や工法などを用いて実施する必要があり、修理費も年々増加傾向にある。茅葺屋根の民家が一般的に建設されていた頃であれば、地域住民で協力し合いながら維持管理することができたが、現在は茅葺職人にお願いして修理を実施する民家が大半である。そのため、茅葺屋根の修理の目安と言われる10~20年に1度は痩せてしまった茅を継ぎ足す差し茅修理等のメンテナンスが必要となり、規模によるが屋根全体に及ぶ場合には数千万円の費用が掛かり、その都度、所有者には負担が発生している状況である。
このように所有者は様々な面で厳しい状況にあるが、それでも先祖から引き継いだ民家を次世代へと継承し続けるため、日々、民家の管理に取り組まれている。もちろん、引き継いだ責務を果たす思いも強くお持ちであるが、民家に対する愛着も大きいのだと感じる。

建築考03_重要文化財細川家住宅について
・立地
細川家住宅は、さぬき市多和額東集落に建つ山間民家である。額集落は室町時代に活躍した武将真部助光の名田であったため、真部氏の旧姓である額から伝わる歴史的背景が色濃く残る地であり、額集落の近くには助光という集落もあり、室町時代以前から人々の営みがあった。
額集落は、阿讃山脈の徳島県との県境近くの標高400m程の位置にあり、冬季は積雪が20cm程となり、温暖な瀬戸内地域の中では厳しい環境と言える。各集落間を結ぶ道は、徳島県美馬市脇町へと繋がり、讃岐と阿波を結ぶ重要な道として大変賑わったと言う。また、道中には八十八番札所である大窪寺があり、巡礼者を運ぶ遍路道としても機能している。
・重要文化財民家としての価値
細川家住宅は昭和41年5月に開始された香川県民俗学会員による多和地域の民俗調査によって発見され、昭和44年5月から香川県内の民家を対象として実施された緊急民家調査により価値が定まり、昭和46年6月に重要文化財に指定された。
細川家住宅は、背後の山林等の周辺環境の影響を強く受けていると考えられるが、正面を南西に向けて建て、桁行6間半(12.8m)、梁間3間(6.1m)の寄棟造の建築である。屋根は茅材が用いられ、軒先まで茅で葺かれた「ツクダレ」形式の屋根形状をとる。内部は横一列に各室が設けられ、東側に上手の「ざしき」が竹床、「ざしき」西の部屋が土座、西側に広い土間(にわ)を設けた三間取り広間型の古式平面構成とする。外壁は土壁の大壁造り、外部と内部を仕切る建具は、片袖引込戸の構えをとるなど、部材や工法の特徴から18世紀中頃に建設された可能性が高いと判断されており、築250年を超える民家として価値が高い。
生活様式の変化の影響を受け、間取り、床廻りの改修は行われてきたが、構造部材を活かした改修であったため、柱等に残る加工の痕跡から建設当初の姿に復原することができ、東讃山間地の民家として特色ある姿を取り戻した。土間(にわ)には、大かまど、かまど、からうす、土座にはいろり、「ざしき」にはとこ、ぶつだん、物入などが設けられ、当時の暮らしぶりをよく伝える。

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