vol.19

小豆島町・夏至観音|vol.19 四国文化遺産

光の菩薩、刹那に切り立つ垂直の祈り

 海外のキリスト教国では夏至に行われる祭りが多いが、日本でも夏越の祓などが行われている。太陽の力が強まる夏至は、季節の節目として古来から人々に影響を与えてきた。瀬戸内の小豆島で見られる夏至観音は、数ある夏至の祝祭の中でも珍しいものの一つだ。
 小豆島88か所霊場1番札所の洞雲山。晴れた日の15時頃に数分だけその姿が現れるという。時間がくると僧侶が現れご祈祷を始めた。一体どこに観音菩薩が見えるのか最初は分からなかったが、中空に組まれた祭壇の前の壁に太陽が当たり、みるみるうちに光の柱が立ち上がってゆく。法螺貝が吹かれ、その形が一瞬人の姿に。その場にいた皆が自然と手を合わせていた。

少し前まで曇っていたので、見られるかどうか心配したが午後3時になると見事に太陽が射し込んできた


 本当にあっという間の現象で、太陽が傾き壁面全体に光が当たるとその姿は認識できなくなった。洞窟の上部にある岩のデコボコが、この時期だけ人の姿を形作るのだろう。一説にはお遍路さんがこれを発見したと言われている。
 静けさを取り戻した境内を散策すると、洞窟の中に観音像が安置された場所があった。水が滴り落ち、まるで教会にあるルルドのよう。観音像も日本離れしたスタイルでまるでマリア様。そういえば小豆島はかつて多数の隠れキリシタンがいたそう。ヨーロッパのキリスト教国のように光に着目した夏至観音も、実はキリシタンはマリア様として見つけていたのではないか? そんな妄想が膨らむ旅に、聖地を巡る面白さを再発見する。ここに昔から祈りがあることに変わりはない。それはいつも切実だ。

大師お杖の水と呼ばれる泉の畔、洞窟の中にたたずむ神秘的な光景にしばし時を忘れる。上から水が滴り落ち、辺りはひんやりとしている

夏至観音は一般にはお遍路さんが撮影した写真に偶然写っていて発見されたと言われている。しかも平成に入ってからだそう

山からはジャンボフェリーが寄港することにより発展した坂手港が見える


写真・文
宮脇慎太郎
1981年生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、日本出版、六本木スタジオなどを経て独立。在学時より国内外に旅を繰り返したが、2009年の奄美大島での皆既日食体験を期に完全に高松に着地した。2016年より瀬戸内国際芸術祭公式カメラマン。専門学校穴吹デザインカレッジ講師。2021年香川県文化芸術新人賞受賞。主な著作に「曙光」「霧の子供たち」「UWAKAI」「流れゆくもの 屋久島・ゴア」などがある

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Miyawaki Shintaro

1981年生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、日本出版、六本木スタジオなどを経て独立。在学時より国内外に旅を繰り返したが、2009年の奄美大島での皆既日食体験を機に完全に高松に着地した。2016年より瀬戸内国際芸術祭公式カメラマン。専門学校穴吹デザインカレッジ講師。2021年香川県文化芸術新人賞受賞。主な著作に「曙光」「霧の子供たち」「UWAKAI」「流れゆくもの 屋久島・ゴア」など

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