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地域×建築アーカイブ【story.2職人と菅組】前編

はじめに:地域×建築アーカイブ|生かし、伝える。未来につなぐストーリー

建築とは、ただ建物をつくるだけの営みではなく、地域の風景そのものを形づくる仕事でもあります。その土地に根づく素材や技術といった地域の資源を生かすことは、ふるさとの景観や記憶を、未来へと受け継いでいくことにつながります。

代々の技で家づくりをささえる職人や、彼らの技を次世代へと語り継ぐ人。長い年月をかけて土地と向き合ってきた人々と、香川県で、地域に根ざした建築を手がける株式会社菅組(すがぐみ)の代表・菅徹夫さんとの対話を通して、建築の役割や、地域資源を次の世代へと手渡していくための知恵や記憶をアーカイブしていきます。

photo Miyawaki Shintaro

 

絵と言葉で伝える、日本全国の職人の心と技

日本全国で家づくりに関わる職人が減っている中、昔ながらの技を次世代に伝えようと、絵と言葉で綴った絵本「絵ことば」を作り続けている人がいます。静岡県島田市の杉村喜美雄さんです。

静岡県藤枝市で工務店「育暮屋(いくぼーや)はいほーむす」を立ち上げ、代表を務めたのち、現在では「絵ことば」の制作に注力しています。

「はいほーむす」と株式会社菅組は、ともに「OMソーラー協会」に加盟し、杉村さんと菅さんは、これまでもイベントや勉強会などを通じて互いに情報交換を重ねてきました。

この日杉村さんは、香川県三豊市仁尾町の、古材と薪ストーブの店「古木里庫(こきりこ)」(株式会社菅組が運営)を訪ねました。

左 菅徹夫さん/右 杉村喜美雄さん


多様な職人の手仕事が息づくまちづくりを ―菅組代表 菅徹夫さん

株式会社菅組の代表・菅徹夫さんは、小さな地方都市にたくさんの中小企業が共存しているイタリアの町のあり方に感銘を受け、多様な職人が共存する、個性豊かなまちづくりを目指しています。

そうした思いから、仁尾町仁尾でNIOYOSUGA株式会社とともに、近世からつづく瓦屋根の町並みを分散型ホテルとして生かす取り組みを進めています。古くからの建物を新しいものに建て替えてしまうのではなく、現代の職人が手を入れて直しながら手仕事の記憶を今へとつないでいく試みです。


職人を応援し、その技を伝える絵本づくり ―杉村喜美雄さん

杉村喜美雄さんは、静岡県島田市在住。地元の工業高校を卒業後、大手ゼネコンに就職し、高度経済成長末期の建築需要の中、様々な現場を経験しました。

その後、地元に帰郷し10年ほど地元のゼネコンで働いたのち、35歳で独立。1985年に静岡県藤枝市で地域密着の工務店「育暮屋(いくぼーや)はいほーむす」を創業しました。2015年頃から事業承継したのち、2022年から「絵ことば」の制作を始めました。


建築会社の集まりで感じた、同じ価値観

「OMソーラー協会」を通じて30年来の付き合いとなる杉村さんと菅さん。
OMソーラーとは、建築家・奥村昭雄氏が考案した仕組みで、集めた太陽の熱を利用して暖房・給湯・換気を行うパッシブソーラーシステムのこと。「OMソーラー協会は、このシステムを家づくりに取り入れている工務店などの集まりです。

この日、菅さんと杉村さんは古材と薪ストーブの店「古木里庫」のギャラリースペースで、杉村さんの「絵ことば」を前に、互いの取り組みについて語り合いました。
(以下、菅徹夫さん…/杉村喜美雄さん…杉村 と表記)



「職人さんの技と思いをつなぐ絵本を作っている」と聞いて、大変興味を惹かれました。杉村さんらしい活動だな、と感じましたね。当社でも大切にしたいと思っていることの、まさに延長線上にある取り組みでしたし、まずは社内の図書スペースに置いて、社員に読んでもらうだけでも勉強になると思いました。

杉村さんは、どのような経緯でこのプロジェクトを始めたのでしょうか。

家づくりに携わる職人10人の物語

杉村
絵本を作り始めたのは2022年のことです。十年ほど前までは、こどもの憧れの職業ランキングの上位にいつも「大工さん」が入っていましたが、今では残念ながらランク外に。現場も職人不足・後継者不足に悩まされています。そんな職人を応援したいと、シリーズ名を「職人さんの汗と夢」としました。

一方で、小中学生の「尊敬する人」の第一位は両親でもあります。職人さんを親に持つ子どもたちが、いつか両親の仕事を受けついでほしい。お父さんやお母さんは、自分の技術や思いを、誇りをもって子どもたちに伝えてほしい。そんな思いもあります。


「左官」に始まり、「塗装」「畳」と色々な職人さんがテーマになっていますね。

杉村
10職種を絵本化しようとしています。「左官」「塗装」「畳」「瓦」「板金」「建具」編は刊行済み、今年から来年にかけて、「基礎工事」「タイル」、その後2年をかけて「水道」「大工」編を制作予定です。

作業の様子や道具などの説明ページもある


手刻みこそ、大工仕事のいちばんの面白さ

杉村
私が創業した頃は、自分と同世代の30代の職人さんがたくさんいました。職人不足を実感するようになったのは15年ほど前から。新建材や工法が発達・普及して、職人が少なくても家を建てられるようになりました。そこで、いざ専門の職人の手が必要だとなったときに、初めて「あれ、できる人がもういない」と気づくというような状況でしたね。

大きい転換点としては25年ほど前に「プレカット*」という仕組みが出来上がったこと。当時は「現場で手刻みしなくていいので、大工が楽になる」と言われていました。実際、作業は楽になりました。加工のための広い作業場も不要ですし、現場では記号通りに組み上げれば家が建てられるようになりました。

*柱や梁などの構造材を、工場でのコンピューター制御のもと予めカットすること。継ぎ手や仕口など木組みのための加工も行う


当社もプレカットが主ですが、余裕のある現場では大工が手刻みをすることもあります。最近手刻みを経験した大工は40代後半でしたが、彼が仕事をし始めた時にはすでにプレカットが主流になっていた世代です。それでも、先輩大工に教えてもらったり、古い家のリフォームの現場などで経験を積んできたようです。

現場では非常に生き生きと楽しんでいました。やっぱり手刻みは仕事の面白さを感じられるようですね。

杉村
手刻みは自分で加工する分、大きなプレッシャーや不安もありますよね。材料を無駄にできないし、お施主さんの手前、失敗できないという緊張感もあると思います。でもその分、家への愛着や達成感もひとしおですね。


そう思うと、ものを作る面白さをより強く感じられるのは、やはり手刻みですね。

杉村
そうですね。

大工・職人の経験値が減っている時代

杉村
一方で、笑えない笑い話がありまして…。あるリフォームの現場で手刻みをしないといけない部分があり、ある大工さんに頼むと、在来の刻み方ではなく、プレカットと同じような形に刻んでいたんです**。つまり、彼にしてみればプレカットの方がなじんでしまっているんですよね。

**伝統技法である手刻みと機械加工のプレカットでは、切り口の形が違う



ここ10年ほどで、新築棟数は全国的に大きく減っています。そもそも現場の数が少ない上に、手刻みとなると本当に限られますね。

杉村
とある建築家の方が、「経験の浅い大工に頼むと仕口や継ぎ手が甘く、プレカットの方が精度が高いこともある」と言っていました。今は一人の大工の修行期間も短いです。本来なら、6年ぐらい修行してようやく一棟を手刻みで建てられるというところでしょうか。

道具の使い方や、刃物の研ぎ方が間違っている職人も少なくないようです。職人仕事は、道具の性格と使いどころを知り、適材適所で正しく使ってはじめて精度が上がるもの。一つひとつをきちんと使いこなすことが大切です。

失われつつある職人技をどう受け継ぐか


設計を行う私たちとしては、地元の職人の仕事をどう作っていくかということを意識しています。かつては地域の中に、左官や建具や大工といったように、色々な職人がいて地場の経済を支えていました。

今、職人は減り、どこに行っても同じような建物が並ぶといったように、建築の地域性も失われつつあります。私たちは、地域の職人を少しでも支えていかないといけないと思っています。


一方で、ビジネスとしてどう成り立たせていくかという課題も常にあります。例えば、安価な新建材もある中で、質は良いがコストのかかる建築材を、どのように使ってもらうのか。まずは適材適所に使うべき素材を、設計者自身が感覚的に理解してお客様におすすめしないといけません。

杉村
工務店が諦めてしまうとユーザーに届きませんからね。


本当にそうですね。

杉村
「手間もお金もかかるし、職人もいない」となると、伝統工法離れはますます進んでしまいます。例えば、設計者自身が畳のない部屋に育っていると、畳のある部屋の提案を躊躇してしまうのではと思います。
いぐさの匂いとか夏場の心地よさなど、畳の良さを感覚的に経験したユーザーでなければ、お施主さんにも自信をもっておすすめしにくいですよね。

ユーザーをつくっていく、ということが職人の仕事を増やしていくのに大切なことですね。


杉村喜美雄さんの手がける絵本
職人さん応援「絵ことば」

家づくりに携わる職人の高齢化や後継者不足を受け、杉村さんの身近な職人をモデルに、職人と家族の日常を届ける「職人さんの汗と夢」絵本シリーズ。

誌的なストーリーは杉村さんが、イラストは地域のイラストレーターや学生、時には職人さんの奥様が手がけることもあるといいます。「職人さん応援 絵ことば」という形で様々な職人の技と思いを伝えます。

2022年よりプロジェクトがスタートし、2026年7月時点で、10種中6種を刊行。
引き続き制作が進められています。

職人さんの汗と夢
全6種(2026年7月時点)販売中
Vol.01 お父さんの汗 お父さんは左官屋さん
Vol.02 お父さんの色のイロハ お父さんは、塗装屋さん
Vol.03 父さんは草の職人 畳屋さん編
Vol.04 父さんは水と空の職人 瓦屋さん編
Vol.05 お父さんの金メダル 板金屋さん編
Vol.06 ひいじいちゃんのセンス 建具屋さん編
各1,000円(税込)※Vol.5 板金屋さん編1,200円(税込)

購入希望の方は下記からメール・お問い合わせください。
▶︎職人さんの汗と夢 公式HP https://shokuninsan.jp/
▶︎Instagram https://www.instagram.com/shokunin_ekotoba/

地域に息づく職人の手仕事
「NIPPONIA仁尾 水鏡の町」

株式会社菅組では三豊市仁尾町の古民家を修繕し、NIOYOSUGA株式会社とともに分散型宿泊施設「NIPPONIA仁尾 水鏡の町」として活用しています。

古くからの建物に現代の職人が手を入れ、地域の歴史と手仕事の記憶を今へとつないでいく試みです。

古くからの間取りや素材感を生かした施設で、仁尾の町に暮らすように滞在することができます。

以上NIOYOSUGA株式会社提供

▼「NIPPONIA仁尾 水鏡の町」(運営:NIOYOSUGA株式会社)についてはこちらから
https://nipponia-nio.jp/


株式会社 菅組
本社:〒769-1406 香川県三豊市仁尾町仁尾辛15-1
https://www.suga-ac.co.jp
TEL. 0875-82-2441

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IKUNAS(イクナス)編集部

香川・四国のヒト・モノ・コトを伝える雑誌IKUNAS(イクナス)の編集部です

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