vol.24

身近な現実と文学をつなぐ+αの楽しみを求めて:「半空」店主岡田陽介さん|本をつくること


本をつくること
本は、誰が、どうやって作っているのでしょうか。
大ヒット漫画を描く人、地域で文学賞を主宰する人、
一世を風靡した雑誌の編集部…。
香川に住み、本をつくっている人たちに会いに行きました。

photo Tanaka Mikuto

コーヒーを片手に、本を楽しむ静かな空間


コーヒーと本と音楽、その味わいを求めて深夜まで多くの人が集う「半空(なかぞら)」。

豊かな世界観をかたちづくるのは、膨大な読書量に裏打ちされた店主・岡田陽介さんの知識と興味関心です。店舗経営のかたわらコラムニストとしても活躍し、文学賞・ラジオ・対談イベントなどさまざまな企画を主宰。活動の幅を自在に広げる岡田さんに、子どもの頃の読書経験から2026年に始まった「半空大学」まで、本とともに歩んだこれまでとこれからを語っていただきました。


表に出ない作品に、新たな光を当てる


「半空」という言葉は、松尾芭蕉の句「京まではまだ半空や雪の雲」に出てきます。

夏目漱石『草枕』にも「見上げる半空には崢嶸(そうこう)たる一峰が」という一節があり、中国語では「天と地の間」のような意味があるとか。時間と空間のどちらにも広がりを感じる言葉です。

飲食店としては「半分」かつ「空」という、同業者にこぞって止められたほど縁起の悪いニュアンスがありますが、だからこそ唯一無二になるだろうと思いました。

 

お店に来る人たちは、よくここで文章を書いています。日記や詩、アイデア帳、作家志望というわけではなく自分だけのために書く文章です。

読ませてもらうとどれも面白いのに、表には出ない作品ばかり。もっと他の人も読める機会をつくりたい、そんな軽い気持ちで始めたのが「半空文学賞」でした。

文学賞に込めた思いを語る岡田さん

文学賞の応募要項は「A4サイズの紙1枚」であること。書式も紙質も問いません。小学生も80代もまったく同じ土俵で参加できるのは、文学ならではの楽しみ方といえるでしょう。

メールを使えない人がいることも考慮して、オンライン提出は不可とし、生原稿のみを受け付けています。一見面倒なようですが、お店でコーヒーを飲んでいる時にペンを手に取ればすぐにでも応募できますよ。今も手書きの原稿が多いですね。

有名な文学賞の多くは「書くプロ」である作家たちが審査しますが、半空文学賞は「ただ読む人」たちが「好き」で選べるものにしたい。

本に出てきた場所や食べ物、旅路を実際に訪ね歩いたりする「本と現実を繋げる遊び」が好きなので、そういう遊びができる場にしたい。このあたりは、当初から変わらず意識しています。 

身近なテーマから広がったコラボ

 

文学賞は、2025年までに不定期で8回開催しています。

第1回は2015年、テーマは喫茶店らしく「コーヒー」としました。第2回は「音楽」。

第3回のテーマをどうしようか考えて、常にポケットに文庫本を忍ばせていた高校時代を思い出しました。ことでんに揺られる通学時間が、とても気持ちいい読書タイムだったんです。

電車と読書は相性がいいし、たまたま隣に座っている人が自分の好きな作品の作者だったら…と考え始めると面白くなって、ことでん(高松琴平電気鉄道株式会社)にコラボを打診。
真鍋康正社長(当時)が文学好きだったこともあり、ノリノリで話が進んで、第3回のテーマは「ことでん」に決まりました。

反響はきわめて大きく、全国的にも初の取り組みとして注目されましたが、何より驚いたのは、普段は小説を書かない/読まない人が「ことでんがテーマなら」と前向きに応募してくれたことです。

潜在的な書き手・読み手の発掘という、まったく予期していなかった文学の広がりに、すっかり味を占めてしまいました。

 

 

第4回は210作品から11作品が入賞、ことでん主要駅で冊子を無料配布

 

以降はコラボで経済効果やストーリー性も打ち出すようになり、第4回「家族」は岩佐佛喜堂の協力のもと大賞作品の絵本を制作。

第5回は丸亀市の共催で「丸亀城」をテーマに、受賞作品集に寄附金振込用紙を挟んで、石垣修復の応援につなげました。

人に会えないコロナ禍中の第6回は「ラジオ」、第7回は弘法大師空海御誕生1250年記念事業にもなった「おへんろさん」。

「栗林公園」をテーマとした第8回は、新たに観光客層にも広がりを見せました。

各テーマは、文学でどれだけ「現実+α」を楽しめるかを重視します。

コラボ先にとっての効果も吟味しつつ、社会情勢や私の問題意識も含め、日頃からアンテナを張るともなく張ってちょうどピントが合った身近なところから、面白いと思ったものを選んでいます。

 

入賞作品集は、「その時代」を伝える資料としても残る

第2回までの選考は、半空に来た人たちが1人1票で好きな作品に投票するシステムでした。第3回以降は規模が大きくなって全作品に目を通すのが難しいため、審査員を決めています。

ただし、いろんな角度で作品を読むことを意識して、プロはごく少数に限定。活動に賛同してくれるボランティアの実行委員会が下読みし、ゲスト審査員で絞り込んでいきます。

いろんな人を巻き込んで楽しいけれど、もちろん大変ですよ。でも「大変なのが面白い」という性格なので、達成感があります。

店が作家を知るきっかけになれば嬉しいし、書き手と読み手が同じ場所で交錯する偶然のドラマを目の当たりにすると、店をやっていてよかったと思います。

すべては古本屋からはじまった

 

文学に親しんだのは、両親のいない環境で育ったことが背景にあります。祖父母のもとで暮らし、体が弱くてあまり学校にも行けず、お金もなかったので、楽しみといえば古本屋の100円コーナー。ジャンルも体裁もごちゃまぜの中から、いつもまとめ買いして読み漁っていました。

古今東西の名作からノンフィクション、自伝、ライフスタイル、宗教や思想、写真集、スピリチュアル、漫画から江戸の健康法まで、とにかく雑多であること自体が最高のセレクトでした。

何を読んでも自分の知らないことが書いてあり、不幸を笑いやユーモアに換えることができるのも、本で知りました。楽しいのに役に立つ、本がこんなに勉強になるなら学校に行けなくても何とかなるんじゃないかと思ったものです。

今、店の本棚に置いてあるのも、自分がいいと思った本ばかりです。なんとなくコーナーを設けて、蔵書は次々入れ替えています。並べ方でさりげなく遊んだりもしていて、時々気づいてくれる人がいますね。たくさん付箋が貼ってあるのは、ラジオで紹介したり講座で引用したり、個人的にインスピレーションを感じたところです。

さまざまなジャンルが入り混じる店舗の本棚

 

自分にしかできないことを、やりたい

 

新しい企画として、高松シンボルタワーの20周年を機に「未来への可能性のきっかけをつくる」というコンセプトのもと、2026年5月に『半空大学』がスタートしました。

ポスターにあしらったのはプラトンの彫像です。

プラトンは「対話でしか伝わらないことがある」と考えていたようで、背後のギリシャ文字は彼が著した対話文学のひとつ『パイドロス』を引用しました。プラトンと同じように、聖徳太子が定めた十七条の憲法も、一つ目が「和を以て貴しとなす」、つまり「対話と交流が重要である」と唱えています。

左/半空大学ポスター 右/第1回のゲストはさぬきうどんめぐりブームの仕掛け人として知られる四国学院大学教授・田尾和俊さん

 

こうした先人たちの文章に触れるうち、私も対話が大事だと思うようになりました。対話は、話している人にも聞いている人にも気付きがあるものです。

『半空大学』は台本のない、ライブ感のある対話から、自分で学びをつかみに行く場にしたい。教える/教わる関係ではなく、誰かが誰かと心を通わせる対話を聞いて、自分自身に問いかける経験をしてほしい。自問自答は、一番シンプルな対話の形なんです。

何事も楽しむ性格ですから、ラジオも文学もイベントも、とにかくワクワクしています。

学校の勉強が好きじゃなかった私の人生は、いわゆるメインルートではないかもしれませんが、誰かがやれることはその人がやればいい。私はみんながやれないことを、これからもやっていきたいですね。

 

珈琲と本と音楽 半空(なかぞら)
香川県高松市瓦町1-10-18北原ビル2F
13:00~翌3:00
不定休
087-861-3070

 

茶論半空
香川県高松市丸の内6-28
19:00~翌1:00
不定休
087-880-5888

さぬきのいいモノ、おいしいモノに出会える場所 通販「IKUNAS.com」

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