一対の人形に祈りを込めて
世界から見る日本の工芸
日本では、厄を祓い、願いを託す存在として、さまざまな人形が作られてきました。なかでも雛人形は、女児の健やかな成長を祈る日本特有の文化として受け継がれてきました。人形のあづまでは、創業から100年以上、雛人形をはじめとする日本人形を扱っています。その工房で日々制作に取り組んでいるのが人形師・上中翔太さんです。
きっかけは、在学中に出会った信楽焼。職人と話す中で「世界には知らない工芸がたくさんある」と知り、卒業後に世界一周へ。各国の工芸に触れる中で、日本の工芸に勝るものはないと実感したといいます。「日本の技を繋ぎたい」。そう思ったとき、自然と浮かんだのが雛人形でした。幼い頃から、両親が夜遅くまで家業の人形店と向き合う姿を見て、この場所を守りたいと職人の世界に踏み出しました。

一番大切な色合わせの工程。生地は、京都、広島、群馬から仕入れている

着物のパーツは一つひとつミシンで制作

お殿様に綿を詰め、かたちを整えていく。使うのは、天然の綿や羊毛

静岡、埼玉の頭師のもとへ上中さん自ら足を運び「こういう表情を作ってほしい」と直接依頼をした
伝統と感謝を繋いでいく
制作は、生地を選び、裁断するところから始まります。その後、着物のパーツを縫製し、藁で作った胴へと着付けていきます。工程は分業制で、頭部を作る頭師と、胴体を手がける人形師に分かれます。上中さんは頭部以外の工程をひとりで担っています。この技術は帰国後、静岡の職人に弟子入りし、身に付けたものです。
「海外で制作されている雛人形は、一目で分からない部分の工程を省いているものもある。でも、見えない細部だからこそこだわりたい」と、帰郷後は、試行錯誤を繰り返して理想の形に近づけていきました。
そのこだわりは着物の色合わせにも。さまざまな色を使用するため、ひとつ違うだけで印象が変わります。主となる生地を軸に全体でイメージが伝わることを大切にしているといいます。
「伝統は繋ぐことの繰り返し。それが千年以上続いて、雛人形の文化になっています。その根底にあるのは感謝だと思う」。これからも感謝を胸に、新ブランド「古典雛」をはじめ、新市場への展開や、新たな人形制作に取り組みたいと語る上中さん。日本の伝統工芸を繋ぐために、次の挑戦を見据える若き人形師の姿がそこにありました。


人形のあづま
香川県高松市円座町835-1
https://www.aduma-ningyou.jp/
photo:Tokumaru Naruhito
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