建築考02_笠島地区の概要

 笠島地区が位置する本島は、塩飽諸島の中心の島として栄え、もとは塩飽島と呼ばれていました。廻船業で大きく発展を遂げましたが、江戸時代中期以降は、全国的な廻船業の成長、発展に伴い、塩飽の水夫の需要の減少し伴い、廻船業に関連していた職人は、大工や漁業分野へと進出するようになります。特に船大工は、高い木材加工技術を有していたこともあり、各地へ出稼ぎするほど、塩飽大工は活躍の場を広げていきます。こうした活躍を見せた塩飽大工が造り上げた建造物群が町並みを形成しています。
 笠島地区は、本島の北東部に位置する小さな港町で、地区の北に天然の良港が開け、三方は丘陵に囲まれています。北に位置する港は塩飽諸島中、最良の港といわれ、船の停泊地、修理場としても利用されました。地区内には狭い通路が網の目のように張り巡らされていますが、主要な道として地区の東寄りを南北に通る東小路、これに直行して弓なりに通るマッチョ通りがあります。この道に面して、本瓦で葺かれた重厚な伝統的な建造物が隙間なく建ち並び、美しい町並み景観を形成しています。通りに面する各建造物は二階建てが多く、二階部分は高さを抑えた(低い)「つし二階建て」と呼ばれる町屋建築です。離島の港町とは思えないほど立派な街並みが整備されているため、島の集落の印象が大きく変わります。それほどまでに塩飽諸島の中心地として栄えた笠島地区は、経済と文化が集積する場所だったと言えます。各建造物の特徴としては、二階部分に防火対策上も効果が高い、漆喰や土で塗られた壁で仕上げられ、細部は左官職人の腕の見せ所として美しく装飾された虫籠窓や格子窓が設けられています。一階部分は腰格子付き雨戸構えと外壁から少し飛び出すように設けられる出格子や窓格子を組み合わせた端正な表構えを持つ建造物が建ち並びます。
 これらの建造物は、高い木造加工技術も有していた塩飽大工によって建造されているため、建物の狂いが少なく、耐久性にも配慮した上で快適に使えるよう様々な工夫が見られます。天井の高さが低い2階空間を有効かつ快適に使うための昇梁などを選択する工夫は、塩飽大工の技術的な特徴の一つと言われております。また、商業を中心に発展した町並みでは、防犯上の理由からも格子1本1本を太く丈夫な材料が用いられることが多いのですが、出稼ぎにより収入を得る暮らしをしていたこともあり、防犯性能よりも暮らす上での快適性の意識だと考えますが、1本1本の格子は細く、繊細な部材で構成されているものが各建造物に取付き、通りからの視線を遮断しつつ、海や山からの風を取り入れる通風の役割が強かったのだろうと考えられます。


建築考03_地区の現状

 笠島地区には、100件を超える伝統的な建造物が建ち並んでおりますが、地区住民の高齢化も進行し、年々空家も増えております。建造物は人の利用が無くなると、たちまち傷みが出るとも言われるほど、使い続けることが建造物を長持ちさせることに繋がると考えられています。空家が増えることで建物の不具合に気付くことができないまま、その不具合が深刻な建造物のダメージへと発展する場合もあります。また、地区が海に隣接していることもあり、白蟻等の生物被害も発生することがあります。特に白蟻は、建物の土台である足元から被害を与えてしまうため、被害に早期に気付くためにも人の目が欲しいところです。
 近年、働き方も大きく変化を遂げていることもあり、インターネット環境等を活用した働き方を実践されている移住者もおられます。また、地区内で育った方の中には四国本島側に住居を持ちつつ地区内との2拠点生活を送られている方もいます。もちろん、地区内に暮らし続けている方もおられ、住居形態も様々な展開を見せております。ただ、やはり地区を良好に維持するためには、地区内に暮らしてもらう方や頻繁に使ってくれる方の存在は必要不可欠です。もちろん、歴史的建造物を維持し続けるためには費用も掛かるため、経済的な活用も建造物を維持するためには有効な手段だと考えております。地区内の建造物の中には、民泊として活用するものも出ており、地区をどのように未来へ継承するかは大きな課題となっています。

「快適に暮らすこと」と「価値を守りながら暮らすこと」
 近年、古民家改修事例も増え、様々な改修事例があります。その改修事例の中には、天井を撤去し、迫力ある小屋組みを表しにする大胆な改修も見られます。しかし、この笠島地区の歴史的建造物は1棟、1棟が美しい町並みを構成する大切なピースです。そのため、現在の感覚で大胆な改修を加えてしまうと、30年後、50年後の人が見た時に、価値のある建造物と思われない可能性のある改修は極力控えて頂くようお願いしております。あくまで文化財として保護をしているのは通り等の公共の場から見える町並み景観ではありますが、訪れる方は、美しい町並みに残る豊かな暮らしに魅力を感じるのではないかと思います。そのためには、外観だけではなく、内観についても、所有者の理解を得ながら守ることも魅力的な地域を守るためには必要なことだと考えております。もちろん、現代人として快適な暮らしの追及は必要だと思います。ただ、この笠島地区の建造物に関しては、価値を守りながら快適さを追求することで、他にはない豊かな暮らしを残せることになるのだと思います。

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