建築考04_町並みは大きなジグソーパズル

 重伝建地区は、大きなジグソーパズルだと思います。歴史的建造物というピースが正しい位置に置かれることで、美しい町並みが完成します。全国には、この美しいジグソーパズルが129個(地区)ありますが、完璧に近い美しさを持つジグソーパズルは、おそらく昭和期までに選定された28個(地区)ぐらいではないかと思います。それ以降に選定された地区は、所々異なるピースがはまっていたり、辛うじてジグソーパズルの絵(景観)として完成している地区もあるはずです。ただ、このジグソーパズルの良さは、コツコツと異なるピースを正しいピースへ入れ替えることが許されていることです。国宝や重要文化財建造物は、完成した価値を持っているものが多く、守ることが優先されているような印象を持ちますが、重伝建地区は、地区に暮らす人々で、これから完成させていく面白さを持っています。それぞれの地区に暮らす人々が1枚の町並み景観というジグソーパズルを完成させるため、もしくは、美しいジグソーパズルを維持するために努力されています。


建築考05_「美しい景観」と「美しくない景観」は何故生まれるのか

 一般的な日本の町並みや都市景観は、世界と比較すると美しくないと言われています。建物の形もバラバラ、使われている素材もバラバラ、建物の建つ位置もバラバラ・・・と、それぞれの土地の持ち主である所有者が思い描く夢のマイホームなり建造物をバラバラに建てるためです。日本人は同調性を重んじる人が多いはずなのに、何故か建築を建てる時には同調性が失われることが不思議でなりません(もはやバラバラだからバラバラに建てることが同調性と言われたら言い返せませんが。)。これは推測ですが、戦後の住宅政策として推進された「1世帯1住宅」計画が影響しているのではないかと思います。または、「家を建てて一人前」のような言葉が、家ぐらいは自分の好きなように建てたい。という社会に抑圧された人々が自利的な気持ちを爆発させているためではないかと思ったりしています。
 もちろん、重伝建地区も1棟、1棟の建造物を見ていくと、全く同じ建築が建ち並んでいるわけではなく、少しずつデザインが異なっていることに気付くことができます。しかし、使われている素材や環境に合った造形などは共通しているため、その統一感を美しく感じるのです。

 今、みなさんがお住まいの地域は美しいですか?お隣さんの家と一緒に見たとき美しい景観だと感じますか?選択肢が広がってしまったことにより、自分の理想を追い求めることはできるようになりましたが、この選択肢の広がりにより失われてしまった美しさがあることも知っていただきたいと思います。
 是非、香川県内唯一の重要伝統的建造物群保存地区塩飽本島笠島地区を訪ねていただき讃岐人が築き上げ、守り続けている「美しさ」に触れてみてください。

文:石田真弥/1985年静岡県生まれ。公益財団法人文化財建造物保存技術協会技術補佐員、独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所アソシエイトフェローを経て、2020年から香川県教育委員会の文化財専門員(建築)として勤務。県内の文化財の保存・活用を通して文化財の魅力を発信をしている。

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