
店舗外観は通りに面した南面のみが視認性が高く、北、東、西面は隣接する建物により隠れる。南壁面にはPCコンクリート板が貼り付けられているが、板表面のデザインは映画「ウエストサイド物語(1961年公開)」のオープニングに流れるニューヨークの街をグラフィック表現したデザインから着想を得ている。このグラフィックデザインは、ニューヨークの摩天楼を縦線の集合で示しているものであるが、城の眼の壁面デザインはどこか讃岐の山並みや瀬戸内海の柔らかな波形を表現しているかのような印象を持つ。デザインは山本忠司が担当。こうしたコンクリート板の施工は、当時ではまだまだ珍しく、施工にあたった岡田石材工業の先駆性、技術力も注目すべき点である。
外壁の他にも、店の前には店名である「城の眼」と記した看板が設置されているが、その看板も山本忠司がデザインしたものであり、台形状に型取られた板は屋島をイメージしており、明かり取りとして屋島から登る太陽と月がくり抜かれている。
このように外観、内観ともに、1960年代の大きなウネリがこの店舗には詰まっている。
昭和37(1962)年3月に開店した喫茶城の眼は、今年で63年を迎えた。開店日は正確では無いものの7日だったと思う。と当時を振り返ってお話ししてくれる馬場順子さん。順子さんは今もお店に立ち続け、城の眼の顔として輝き続けている。開店時、順子さんは女学生であったため学校が終わるとお店を手伝うことが日課であったそうだが、この歳までお店をし続けるとは思ってもなかった。と笑いながら話されていた。
コーヒー豆の仕入れ先も変わらず、配合も変えていないと言う。多くの著名人が愛飲した味も変わらず楽しむことができるのも大きな魅力だ。こうした変わらないことの価値は時間の経過と共に高まっていくのだと改めて感じる。

建築考02_時を重ねた建築が街中にあることの価値
オーナーの順子さんからは、いつまで続けられるかしら。とお聞きしているが、高松市街地の中で変わらない景色は数える程しかなく、都市の記憶は更新されるばかりで、なかなか定着しない。世代ごとに記憶の中の高松市街地の風景は異なる面白さはあるが、あそこだけは変わらないよね。と、どの世代でも同じ風景、同じ空間を思い出せる場所は、それだけで価値がある。更新され続けることで生み出される価値があるように、変わらないことで生み出される価値があることを教えてくれる場所に「喫茶 城の眼」はなっているのであろう。
順子さんは店を後にする時、いつも笑顔で「また、来まい」と言ってくれる。その言葉を聞くたびに、いつまでも変わらない場所であり続けて欲しいと思う。
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