美しい町並みには豊かな暮らしが残る
丸亀市塩飽本島町笠島地区は、国が選定する重要伝統的建造物群保存地区として県内で唯一保護を受ける歴史的な町並みです。1985(昭和60)年に保護がスタートし、今年で40周年を迎えました。四国地方の中でも愛媛県内子町の町並み(昭和57年選定)に続く2地区目の保存地区であり、全国的に見ても22番目に選定された保存地区(現在の保存地区数は129地区)として、国内を代表する歴史的な町並みとして評価されています。
特に評価されている点として、超高密度に歴史的建造物が連続して残っていることを挙げられることが多く、時代劇のセットでは生み出せない、本物の生きる町並みが残されています。地区内の建造物の多くは住宅として建てられ、今もなお、住宅として住み継がれている建造物が多いです。
全国の保存地区の中には、観光地化が進み、地区が整えられた頃とは異なり、賑やかな地区へと変化している地区もありますが、笠島地区は町並みが整えられた頃と変わらない瀬戸内海らしい豊かな暮らしを守りながら維持されています。しかし、地区住民の減少は、この40年間で急速に進み、地区を維持するために移住者の促進や地区内の建造物の活用にも乗り出しております。また、瀬戸内国際芸術祭の会場としても活用されており、歴史的な町並みの中で現代アートの展示が行われる独自の展開も見せています。
歴史的な町並みを文化財として守ることは、単なる景観の保護だけではなく、その地区に残る風習や慣習をも守ることが可能となり、讃岐らしい暮らしや生き方を現代に伝える貴重な場所となっています。

建築考01_町並みの保護について
古民家が当たり前に建てられていた時代には、全国各地に地域らしい町並みがひろがっていました。古民家は各地域の気象条件や手に入る材料、生業に応じて変化に富み。古民家の専門家であれば古民家の形を見るだけで、どの地域の古民家かわかるほど地域差を持っています。それほど、古民家には、地域の情報、歴史や文化、暮らし方が詰め込まれています。
しかし、こうした古民家も高度経済成長期に経済状況の変化や都市部への人口集中などにより、一棟、また一棟と解体され、現代の住宅へと置き換わりが進み、古民家が建ち並ぶ伝統的な美しい町並み景観は失われていきました。
こうした問題に対して、国は1975(昭和50)年に伝統的建造物群保存地区制度をつくり、各地に残る美しい伝統的な町並みの保護に乗り出しました。この町並みの保護制度は、今年で50周年を迎え、今では全国に129地区の重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建地区と言う。)と呼ばれる町並保存地区が誕生しました。この重伝建地区には、世界遺産にも登録されている岐阜県の白川郷や岡山県倉敷市の美観地区なども含まれ、今では地域の誇りとして捉えられ、地域の重要な資産として認知されています。
翻って、香川県内の状況はどうか。と言いますと、1地区のみが重伝建地区として保護を受けています。それが、丸亀市塩飽本島町笠島地区(以下、笠島地区と言う。)です。笠島地区は、瀬戸内海の豊かな暮らしや繁栄ぶりを伝える場所として、1985(昭和60)年から町並みの保護が進められ、今年で40周年を迎えました。この地区には100件を超える伝統的な建造物が残されており、文化庁からも全国屈指の保存状況だと評価を受けるほど、超高密度で伝統的な建造物により形成された「本物」の町並み景観が残されていることが最大の魅力と言えます。
「本物」があるのであれば、「偽物」もあるのか?と思われるかもしれませんが、「偽物」という言葉を使ってしまうと強すぎる印象を与えてしまいますが、一部「偽物」も含んだ町並みは、現在保護されている重伝建地区内にあります。ここで言う「偽物」というのは、地区内に残る伝統的な建造物の外観デザインを参考に、町並みに合わせて新築または改築し、町並み景観として違和感が無くなるよう景観の修正が行われている建造物を指します。この景観の修正が必要となった建造物のことを、専門家は修景物件と呼んだりします。この修景物件が笠島地区には、非常に少ないため、本物の町並みが保存されている。と言われる理由です。



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