デザインで紡ぐ、日本の技 「須藤玲子:NUNOの布づくり」展

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)にて開催中【2023年10月8日〜12月10日】

October 16,2023

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丸亀市猪熊弦一郎現代美術館のエントランスには、今、大きな幕がはためいています。

「これ、とても大変だったの」。2023年10月8日から開催している「須藤玲子:NUNOの布づくり」展の「NUNO」を主宰する須藤玲子さんは笑います。

 

手捺染(てなっせん)の布を剥ぎ合わせて作られた巨大な幕「Big Pastel Drawing(新作)」は幅18.9m、高さ9.6m。風を含んだように膨らんだりはためいたりする様はいつまでも見入っていられそうです。

「ここを通り抜ける風を可視化したいと思った」と須藤さん。

「おいで、って来館者を迎え入れてくれるような感じね」。

〔Big Pastel Drawing〕猪熊弦一郎氏による壁画「創造の広場」と呼応するように、須藤さんのドローイングが重なる。紙に描いたドローイングを1ピクセルずつデジタル処理し、数えきれないほどのパターンを手捺染する。気の遠くなるような作業の連続だ
〔顔80〕エントランスの吹き抜けには、もう一つの新作「顔80」が掲げられている。猪熊弦一郎氏の原作をデジタル処理し、さらに針目へと転換。刺繍を施してタッチを再現した

斬新なアイデアと伝統技法を組み合わせ、多彩なテキスタイルを創造してきた「NUNO」。

その作品はMoMAをはじめとする一流美術館でコレクションされるなど、世界を牽引しています。

そんな「NUNO」の国内初となる大規模展覧会が、丸亀市の猪熊弦一郎現代美術館で開催されています。本展では「NUNO」が考案した7つのテキスタイルを中心に、その着想の原点や製作過程、それらを支える技術を紹介しています。

日本の古いものにヒントを得て

展示室に入ると須藤さんの創作の原点ともいえる“幕”が登場します。

これまでに「NUNO」が手がけた288枚のテキスタイルをパッチワークにしており、色・形・素材も実にさまざま。一つひとつに発見があり、見る者を「NUNO」ワールドへと誘い入れます。

〔幕 幔幕〕紅白幕のように、日本では古くから幕によって空間を特別なものへと仕立てる文化があった。須藤さんは、一枚の布ながら特別な役割を持つ幕に魅力を感じ、「いつかそんな布をつくりたい」と考えていたのだそう

幕の向かいには日本の古いハギレのコレクションが展示されています。

「NUNO」で新たに手がけるテキスタイルは、こうした伝統的な色味を再現してつくられています。「日本古来の布の色は、植物など自然由来の染料から表現したもの。だから、どのように組み合わせても互いによく調和する」と須藤さんは理由を語ります。

足もとから考える
テキスタイル業界のサステナビリティ

7点のうちの一つ「きびそ」は、そもそも蚕が繭(まゆ)をつくるときに最初に吐き出すやや硬い糸をさす言葉。

自動化される前の操糸場では捨てるところなく全て使い切っていたようです。

しかし、自動化される中で効率よく製糸するたびに、表面のきびそ部分が副産物として残るようになりました。

家畜のエサや化粧品に活用されてはいたものの、繊維としては利用価値がないとされていたのです。

しかし、きびそもいわば絹。天然繊維ならではの高い機能を持ち合わせていることに着目し、アイデアを模索した結果、素朴な質感を活かしたオリジナルのテキスタイルが生まれました。

布地に手で触れられるコーナーも。「きびそ」は思ったよりもゴワゴワとした風合い

現代のテキスタイル業界は、環境に大きな悪影響を与えていると言われています。

廃棄されるものを再生する、あるいは、デザインによってこうした課題を解決できないか、ということも「NUNO」の創作において重要な意識となっているのです。

日本の小さな工場が
世界レベルのアイデアを形にする

「NUNO」のテキスタイルは日本国内の工場でつくられています。一つひとつの工場は小規模で、家族経営というところも少なくありません。

しかしそれらの技術は非常に高く、名だたる高級メゾンがこうした小さな工場へとテキスタイルを発注しています。

世界に誇れる高い技術が身近にあるということを、より多くの人に知ってもらいたい―

そうした思いもまた、「NUNO」の原点となっています。

「テキスタイルは日々触れるものでありながら、どのように出来ているか実はよく知らない、という方も多いのではないでしょうか」と、本展を企画したキュレーターの高橋瑞木さんは語ります。

「だから『種明かししてみませんか?』と須藤さんに提案しました」。

国内各地の工場の協力のもと、作業の様子をインスタレーションや映像で再現。まさに現場を間近に見ているような没入感のある展示空間が広がっています。

たとえば、袋帯の織機をつかったジャガード織は、両端に不要な“耳”ができないため、織り上げたものをそのまま生地として使うことができます。

しかし、そうした布地は世界的に見ても稀。日本で当たり前のように受け継がれてきた技術は、実は世界全体を見渡しても希少なのだそう。

今や日本でしか生産できない、極細幅のリボンを渦巻き状のレースにしたり、

熱で縮む特殊な糸を織り込むことで、折り紙のような折り目を付けたり…。

斬新な「NUNO」のアイデアを形にするには、職人の腕と志が不可欠。

製造工程を追体験することで、彼らの矜持に触れられた気がします。

美しく新しいデザインと、それを裏打ちする奥深い技術。日本のものづくりの可能性を体感する展覧会です。ぜひ、足をお運びください。

 

最後にお楽しみを

1階のミュージアムショップでは「NUNO」のオリジナルテキスタイルやバッグ、ワンピースなどの小物がずらり。

展示を見てストーリーを知った後ならば、なおさら愛着が湧いてくるというものです。

本展に合わせたオリジナルテキスタイルも販売中。

お馴染みの「顔」が刺繍されたすてきなテキスタイル!暮らしに取り入れてみたくなりますね。

「須藤玲子:NUNOの布づくり」

2023年10月8日(日)〜12月10日(日)

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)

10:00-18:00(入館は17:30まで)

休館日:月曜日(10月9日は会館)、10月10日(火)

観覧料:一般950円、大学生650円


※詳細は以下をご確認ください

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