よみもの

地域×建築アーカイブ【story.1林業家と菅組】前編

はじめに:地域×建築アーカイブ|生かし、伝える。未来につなぐストーリー

建築とは、ただ建物をつくるだけの営みではなく、地域の風景そのものを形づくる仕事でもあります。その土地に根づく素材や技術といった地域の資源を生かすことは、ふるさとの景観や記憶を、未来へと受け継いでいくことにつながります。

山で木を育てる林業家、そしてその木に新たな役割を与える大工や職人たち。長い年月をかけて土地と向き合ってきた人々と、地域に根ざした建築を手がける株式会社菅組(すがぐみ)の代表・菅徹夫さんとの対話を通して、建築の役割や、地域資源を次の世代へと手渡していくための知恵や記憶をアーカイブしていきます。

かがわヒノキの伐採ツアーがつなぐ森と建築

香川県の山間部に位置するまんのう町仲南(ちゅうなん)地区。徳島県との県境にほど近いこの地に、林業 家・豊田均(ひとし)さん・卓さん親子が営むヒノキ林が広がっています。

この森で育ち、伐採されたヒノキは、菅組の家づくりに建材として活かされています。こうしたつながりのもと、豊田さんと菅さんとは長年にわたり交流が続いています。

左から菅徹夫さん、豊田均さん、豊田卓さん

この日、菅さんは豊田さんの森を訪れ、あらためてその現場に触れる機会となりました。


ふるさと香川の風景を守り伝える ―菅組代表 菅徹夫さん

菅組代表 菅徹夫さん

ナチュラリストとしても知られる菅さんは、人と生きものが共に生きる昔ながらの里山の姿に目を向け、その自然を調査・記録する活動を続けています。また、ビオガーデンやビオトープづくりにも取り組み、自然とのつながりを大切にした環境づくりを行っています。

さらに、その土地本来の「ふるさとの木」を植える取り組みも、菅さんの思いを象徴するものです。家を建てるだけでなく、その周囲に木を植えて小さな森を育てることで、地域の風景や生態系を守り、未来へつなげていこうとしています。

株式会社菅組提供 鎮守の森Project  https://www.suga-ac.co.jp/guardian_forest/

こうした理念のもと、菅さんは県内西部の事業者と協力しながら、2000年代初頭より「讃岐の舎(いえ)づくり倶楽部」という任意団体を運営し、香川県産ヒノキ材の普及にも力を注いできました。

今回訪ねた豊田均さんも、こうした考えに共感して同倶楽部に参加したメンバーの一人。設立当初から、一般の見学者を森に迎える「大黒柱伐採ツアー」など、ユニークな取り組みを、菅さんとともに二人三脚で進めてきました。

 

香川県まんのう町で代々ヒノキを育てる ― 林業家 豊田 均さん・卓さん

林業家 豊田 均さん

豊田均(ひとし)さんは、林業に携わって60年以上の経験を持つベテランです。もともとは、均さんの父が大正の初め頃から始めたもので、昭和21年には徳島県との県境に近い現在のまんのう町仲南地区へと移り住み、森とともに暮らす営みを続けてきました。

均さん自身も学生時代には、林業科のある徳島県の高校に通い、卒業後は祖父や父とともに家業に加わりながら、長年にわたって森と向き合ってきました。

林業家 豊田 卓さん

一方、息子の豊田卓(たく)さんは、徳島県の農業大学校林業分校で学んだのち、高知県の木材市場に勤務。その後独立し、自身で木材店を経営するなど木材業界での実務経験を積んできました。近いうちに家業継承することを見据え、引き継ぎの準備を進めています。

目の前の人にヒノキを届ける、森のツアー

久しぶりに豊田さんの作業場に来たという菅さん。清々しい空気の中、お二人の出会いを遡っていくと、話題はおのずと「大黒柱伐採ツアー」のことに。
(以下、菅徹夫さん…/豊田均さん…豊田均/豊田卓さん…豊田卓 と表記)


お客さんに、自分の家で使う大黒柱の伐採に参加してもらう「大黒柱伐採ツアー」はその象徴。豊田さんには長年お世話になっています。

豊田均
通常、出荷したヒノキの丸太は製材されていきます。その先でどこの誰に、自分の育てた木が届いているかは分かりません。一方で、伐採ツアーで伐った木は目の前のお客さんの家の大黒柱に使われる。その家の中心にいつもあるし、写真を撮ったり木に触れたりと、ツアー自体も家族みんなの思い出に残る。「あの山であの時こんなふうに過ごした」と大切な思い出になるのが嬉しいですよ。

株式会社菅組提供  2025年度の大黒柱伐採ツアーの様子


豊田均
特に伐採ツアーで伐る木は、七寸(約21cm)~八寸(約24cm)角の角材を採れるような、太くて長い木。それを伐採するんだから、倒れるときの風圧や衝撃はものすごいですよね。


自然と拍手がおこります。

豊田均
普段の生活で、山に入って伐採の現場を見ることはまずないと思いますから、多くの方に楽しんでもらえているなと思います。

株式会社菅組提供  2025年度の大黒柱伐採ツアーの様子


伐採ツアーでは高さ20mほどの木を伐るので、大黒柱以外にも家の中の主要な柱4~5本を伐ったヒノキでまかなうことになります。まさにヒノキに囲まれて暮らしているんです。豊田さんには、完成見学会に来ていただいこともありましたね。

豊田均
あの木がこんな風に使われているんだな、と実際に目の当たりにすると、やはりやりがいに繋がります。

先代から受けついだ究極の「無節」ヒノキ


豊田さんの森では、先代のお父様が植林したヒノキが、今ちょうど伐期ですね。

豊田均
80年ぐらい経っているものもありますね。今生えているものは、若い木でも20年ものです。ほとんどがヒノキですね。



香川県で植林されている木の9割はヒノキですよね。雨が少ない気候なので成長は遅いですが、その分年輪が緻密で締まっていて、強度も高い。ヒノキの良さは特有の香りと端正な美しさ。杉と比べると堅いので、加工もしやすいという特長があります。

中でも豊田さんがすごいのは、節がない「無節(むぶし)材」を手がけていること。これはどのように管理しているのでしょうか。

豊田均
直径が3.5寸(約10.5cm)ぐらいになるまでに枝打ちする(枝を落とす)ことが大事です。あんまり若いうちから打つので、県の担当者からは「木がほこらん(繁らない)ぞ」と言われたこともありましたね。
木は枝下から太っていくものですから、若いうちに枝を打つことで幹の太さが根元から先まで均一になります。そうすると建築材としても使いやすい。



節がなく木目が緻密で太さも均一。豊田さんのヒノキは上質で非常にグレードが高いです。

豊田均
昔は無節材は高く売れました。父がまだ林業に従事する前、隣家の製材所の主人が「ここに節がなけりゃなぁ」とよくぼやいていたそうです。それを聞いた父は「無節材」をひとつの大きな目標として、一生懸命にやってきたんでしょうね。



日本家屋や和室の需要が減り、床の間・座敷といったような、銘木を“見せる”使い方は減ってきています。そんな時代にあっても、「木とともに」という当社のメッセージはこれからも大切にしたい。

宮大工をルーツにもつ当社は、やはり木造建築が原点なんです。ふるさとの木でふるさとの家をつくる。それが風景を守り伝えていくことにつながると思っています。


「大黒柱伐採ツアー」開催情報

株式会社菅組では「大黒柱伐採ツアー」を定期開催しています。

香川県まんのう町の専業林業家・豊田均さんの森をたずね、ヒノキの伐採に立ち会う「仲南の森 大黒柱伐採ツアー」。実際に新築する家の大黒柱になる樹齢100年ほどのヒノキが、住まい手さんや見学者の見守る目の前で、
豊田さんの手によって伐採されます。

伐採を見守り終えたら、特製弁当を気持ちの良い山の上で食べたり、楽しい座談会も開催。
伐採の現場を間近で見られる貴重な機会です。

▼2025年度の開催の様子
https://www.suga-ac.co.jp/info/event/entry-5303.html

以上、株式会社菅組提供

▼2026年度の開催については、菅組ホームページをご確認ください。
https://www.suga-ac.co.jp/



林業家 豊田均さんと建築会社菅組代表の菅さん。「ふるさとの風景を守りたい」という2人の想いは、「大黒柱伐採ツアー」をはじめとする取り組みによって、今も多くの人に届けられています。


後編では、豊田均さん・卓さん親子の森づくりへの想い、菅さんの思い描くこれからの建築のあり方について、対談をお届けします。

(後編に続く)


株式会社 菅組
本社:〒769-1406 香川県三豊市仁尾町仁尾辛15-1
https://www.suga-ac.co.jp
TEL. 0875-82-2441

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IKUNAS(イクナス)編集部

香川・四国のヒト・モノ・コトを伝える雑誌IKUNAS(イクナス)の編集部です

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