『工房をたずねて 01』手のひらサイズの鬼瓦たち(讃岐装飾瓦)

September 30,2016

  • 工房をたずねて
  • 香川の伝統工芸

讃岐装飾瓦 伝統工芸士 神内俊二[やきもの工房 onuma]

丘の上のやさしい鬼
 時おりタヌキが遊びに来るという自然豊かな丘の上に建つ「やきもの工房 onuma」には、心やさしい”鬼“が住んでいる。香川県の伝統的工芸品「讃岐装飾瓦」を作る神内俊二さん(65)は、この道30余年。鬼瓦を作る職人を「鬼師」といい、神内さんは讃岐に住む「鬼師」の一人である。


 工房は大工さんに基礎と柱組を頼み、あとは自ら手づくり。15年ほど前、ギャラリーも増設した。一見、無造作に見える道具や型は、何がどこにあるかすぐに分かるように配置してあり、いかにも使い勝手がよさそうだ。
 「鬼瓦」といっても、香川県内で屋根に「鬼」が飾られることは稀で、ほとんどが龍や鳳凰などの動物や、雲、葉っぱなどのモチーフだという。「鬼師として、鬼を知らないわけにはいかない」。神内さんは四国八十八ヶ所を巡ったり資料を収集し、独自に研究を始めた。「屋根の部品にはなれなくても、何か用途があるはず」。そんな思いが、次々と独創的な作品を生み出した。室内用の鬼瓦、蚊取り線香器、うどんの器、小鉢やマグネット…。そして今春から取り組んでいるのが、「四国八十八ヶ所鬼瓦」だ。

八十八ヶ所をイメージ
 各寺の鬼瓦を参考にイメージ画を描き、手のひらサイズに落とし込む。どんな形相の鬼も小さくなると、ユーモラスでかわいらしい。「鬼にもいい顔と悪い顔があるんや。うん、これはええな」。神内さんは小さな鬼を手に取りながら、わが子を見るような眼差しを向けた。
 瓦用の土は粘土質が少なく、扱いにくい。成型は、粘土を少しずつ重ねながら行う。時に大胆に、繊細に。「バランスがよければ、角も牙もなくてええし、笑っとってもええ」。神内さんの手と土の中からちいさな鬼が、自らの意志を持って生まれてくる。
 完成した鬼は乾燥させ、燻し焼にする。八十八ヶ所のうち、現在完成しているのは23個。今年中には完成させるつもりだが、特に焦っているふうでもない。「土や火、自然が相手だから思うようにいかないことも多い。でも偶然うまくいくこともある。その偶然を追いかけるうちに、もっとよくなる」。
 神内さんは、ほぼ毎日工房で土に向かい、気持ちが乗れば夜中まで制作に没頭する。何を作っていても無心で、先のことはどこ吹く風。「考えない時に、イメージが降ってくる」。そんな神内さんの傍らで、小さな鬼たちが笑っている。(IKUNAS FLAVOR OF LIFE vol.4 掲載記事)

神内さんの「讃岐装飾瓦」の商品はこちらIKUNAS web storeへ▶︎

やきもの工房 onuma

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