『工房をたずねて』WEB版
打出し銅器 吉原信治郎
March 17,2023
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次世代へつなげる打出し銅器
「銅器は三代もの、使い込めば使い込むほど風合いが出る」と語るのは吉原信治郎さん。
香川県で唯一打出し銅器を担っている職人です。
金属の中でも柔らかく扱いやすい銅は古くから金工の材料に用いられました。
一枚の銅板からやかん、ぐい呑みや片手鍋に打ち出していく。そのため継ぎ目が無く壊れにくく、
長期の使用に耐える丈夫さを備えています。
鎚目が美しい打出し銅器は使うほどに味わいを増していきます。
また銅は熱伝導率が非常に高いため、湯沸かしは驚くほど速いのだそう。
香川県での打出し銅器の技術は、吉原さんの師である伝統工芸士・大山柳太氏の先代、
大山為八氏が神戸で打ち出しの技術を習得し大正14年に旧高松市に持ち帰ってきたのが始まりといいます。
吉原さんは元々県庁職員でした。今から二十年ほど前に先述の大山柳太氏と出会ったといいます。
伝統工芸展で実演を見て興味を持った吉原さんは、根掘り葉掘り打出し銅器について聞いたそうです。
すると大山氏に「そんなに興味があるのなら一度教室に来ないか」と持ち掛けられました。
「初めて教室でつくった鉢受け皿は師の教えがいいのか中々の出来。
ここから打出し銅器の製作に傾倒し始めた」と吉原さんは当時を懐かしみます。
このときの鉢受け皿は今も大切に残しているのだそう。
大山氏は80歳で廃業することを決めていました。
このままでは香川県から打ち出し銅器が消えてしまうと大山氏と吉原さんは、
打出し銅器を伝統的工芸品として継続できるように掛け合い、無事継続されることに。
吉原さんのこの行動があったから、今も打出し銅器が高松に残っています。
思うだけでなく、行動に移すことがいかに大切かとこのお話を聞いて痛感しました。
ながく大切に扱ってもらいたい
打出し銅器の製作は非常に手間がかかります。数多くの道具や治具類も必要です。
裁断した銅板をまず椀型に叩き絞ります。絞り作業により銅が硬化していきます。
続いて形を加工しやすいよう軟化させるため、バーナーで赤熱する「鈍し(なまし)」という作業を行います。
鈍し終えた銅は手で曲げられるほど柔らかくなります。
叩き、絞って、鈍す。この作業をひたすら繰り返すことで形を変形させるとともに、強度を増していきます。
道具類の使い方にはテクニックが必要で習得にも時間がかかります。
「こうしたコストを反映させると高価なものになり、日用品にはあまり適さない。
ただ、今の状況でも興味を持つ方たちはいて手に取ってくれる」と吉原さん。
だからこそ、「興味を持ってくれる方たちによいものを」と制作を続けています。
打出し銅器の使い方
銅は水分を嫌うので使い終わった後はすばやく水洗いをし、水分を拭き取って保管します。
フライパンの場合には軽く水洗いし、内面に油をぬります。時間をかけ十分になじませることが肝要です。
吉原さんのつくる銅器には色止め塗装をしていません。
その理由は「いい色に使い込んでもらいたいから」。
汚れていない手で毎日触れ、撫でることで深みのある銅色になっていきます。
昔からモノ作りが好きだった
「木工、石工、いろいろやってきたけど一番ハマっているのは間違いなくコレやね」。
倉庫を自ら改装し工房に仕上げたといいます。
道具にもかなりのこだわりがあるようで木槌はすべての面が使えるように細工も施していました。
すべて型紙を残しており設計図も綺麗にまとめられていました。
吉原さんの性格が垣間見えた瞬間です。
「私が辞めてもこうやって記録として残しておけば、また誰かが打ち出し銅器を始めるだろう」。
今回の〔工房をたずねて〕で感じたことは、伝統的工芸品を後世に残す意志。
これからのIKUNASの活動をより充実したものにするにはどうしていくか、そうした課題が生まれた一日でした。
香川県伝統的工芸品指定 打出し銅器
吉原信治郎
→吉原さんの打出し銅器はこちらから購入できます
・讃岐おもちゃ美術館shop (実店舗)
香川県高松市大工町8-1(くるりん駐車場1階)
10:00~19:00 木曜定休(祝日の場合は翌日休)