変わり塗りでつくる、新しい波

漆の茶色が混ざることで、ワントーン落ち着いた青に仕上がる。その深みのある色合いがお気に入りだそう
香川漆器との出会い
香川を代表する工芸品のひとつ、香川漆器。その五技法は、国の伝統的工芸品にも指定されています。そんな漆芸が盛んな香川で、墨流しという変わり塗りの技法を用いて制作を行う、さざなみ漆器の竹森滉さんの工房を訪ねました。
兵庫県出身の竹森さんが香川漆器に出会ったのは、19歳の頃。高校卒業後はものづくりの道に進みたいと思っていたところ、漆を知りました。漆芸の中でもカラフルで自由な香川漆器に惹かれ、20歳の時に、香川県漆芸研究所へ入所しました。
卒業後は、漆で絵付けした器などを販売していましたが、試作を重ねる中で、改めて墨流しという技法に目が向いたといいます。「ひとつとして同じものが生まれないという墨流しの特性が、自分に合っていた」と竹森さんは振り返ります。

商品にぴったりのさざなみ漆器という屋号は墨流しを始める前から使用していたとか

色が厚く重ならない墨流しでは、ベースの色は白で統一

配合は、その時でさまざま。日によっては緑かかっていたり、青みを帯びていたり、その違いを楽しんで

ヘラを使って塗ることも。使い込まれた筆の毛先は、青く染まる
枠を超えたその先へ
墨流しに使うのは、青色の顔料と透き漆を混ぜたオリジナルの色漆。それを水の中へ落とすと、青がふわりと広がります。軽く水面を混ぜ合わせたあと、ゆっくりと器を沈めていきます。そうして生まれる模様は、どれも違った表情を見せます。「作業は同じだけれど、模様は毎回違うので、そこが面白い」と話す竹森さん。ですが、自分のコントロールが及ばない分難しく、やり直すこともあるとか。
特徴は、下地にも。つるりとしたイメージの香川漆器が多い中で、さざなみ漆器は、砂浜を思わせるざらりとした質感が印象的です。これは、絹豆腐を混ぜた絞漆を叩き塗りすることで、独特の質感を生み出しています。使い込むうちに剥げても、凹凸の高い部分から自然と落ちていくため、経年変化も楽しむことができます。
保多織×漆のボタン制作や写真への墨流しなど、今までとは違う取り組みがあった2025年。
「ずっと面白いことをやろうと思ってきたけれど、人と一緒に取り組む中で、今までは限られた枠の中にいたんだと気づきました。まだまだ考えられることがある」。そう語る竹森さんの眼差しは、新しい挑戦を見据えて力強く輝いていました。


さざなみ漆器
https://www.sazanamisikki.com/
photo:Tanaka Mikuto
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