『工房をたずねて』庵治石 / 二宮力

September 24,2024

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庵治石を身近なアイテムに


香川県高松市の東部にあり、瀬戸内海に面した庵治半島。五剣山の山麓でのみ採出される庵治石は、別名「花崗岩のダイヤモンド」とも呼ばれ、昔から重用されてきました。
今回は、その庵治石の産地の一角にある「株式会社蒼島(あおいしま)」を訪ねました。株式会社蒼島では、庵治石に関わる様々な事業を展開しています。

一階のショールームには、庵治石の本立て「ROCK END」をはじめとしたプロダクトが数多く並んでいます。ここにあるのは「暮らしに寄り添う庵治石プロダクト」をコンセプトにしたブランド「AJI PROJECT」の商品。加工する際に出た端材や、墓石などに加工できない大きさの庵治石を利用し、インテリアや日用品として身の回りで使用できるアイテムを制作しています。庵治石の美しい模様や自然の石の手触りなどを活かしたこれらの商品は、日本国内のみならず海外からも注目を集めています。

墓石だけではない、新たな価値を


そんな「AJI PROJECT」を牽引しているのが、株式会社蒼島の代表・二宮力さんです。
1000年以上の歴史を持ち、昔から建造物などにも用いられてきた庵治石ですが、戦後は墓石としての活用が主だったため、墓を建てる人の減少や安価な外国産の墓石の流入により、徐々に販路が縮小していきました。以前は500社あった石材関連業者も今では200社ほどに減り、このままでは石材業界が衰退してしまうと考えた二宮さんは、墓石ではなく新たな市場で庵治石の魅力を発信することにしたそう。そこで、2012年に始まった「AJI PROJECT」を引継ぎ、2021年に株式会社蒼島を設立しました。

世界的にも珍しい奇跡の石

日本三大花崗岩の一つであり、世界的にも高く評価されている庵治石は、その模様の美しさと硬度の高さ、そしてきめ細かな石肌で風化しにくく、磨くほどに艶が増すことが特徴です。地質学の教授からも、人の手が届く場所に庵治石が隆起しているのは奇跡だと言われたそう。

「粒子が細かく、結合力が高い石というのはそうそうない」と話す二宮さん。その性質ゆえ、細かい部分まで加工できるため、職人の腕の良し悪しがよく分かるという特性も。庵治石が銘石と呼ばれるのも、脈々と受け継がれてきた石工職人達の技があってこそです。

職人として、人の手でしかできない仕事を大切にしている二宮さん。例えば文字を彫る時でも、全体のバランスを見て大きさや位置を調整したり、彫る深さを変えたりします。このように職人の目と手で作られた直線や曲線からは、どこか優しい安らぎを感じます。
「細やかな気遣いは日本特有の文化だと思います。今後、自動化やAIの活用がさらに進むでしょうけど、自分が生きている間は、職人の存在意義である手仕事にはこだわっていきたい」と話します。

牟礼町から日本国内へ、日本から世界へ

このように、日本の職人の一人として日々活動している二宮さんの活動は多岐に渡ります。「AJI PROJECT」の運営や企画展への出展をはじめとして、国内外のアパレルやジュエリーブランドとのコラボにも取り組んでいます。数多く行ってきた取り組みの中で一番印象に残っているのは、日本のジュエリーブランド「EYEFUNNY」とのコラボだそう。この挑戦が、今まで縁のなかった業界との融合を進めるきっかけになりました。

「このような企画を進める中で、今一番大切にしているのは、誰と一緒にやるかということ。発信力のある有名な企業やブランドとコラボをすれば、知名度が上がり、産地の価値も上がると考えています。商品だけを見ると高価だと感じる方も、産地見学で作業工程を見た後では、その考えがガラリと変わります。完成まで多くの職人の手間と時間がかかった商品を適正価格で販売するためにも、新たな挑戦をしてきたいです」
と語る二宮さんの挑戦は、海外のデザイナーとのコラボなど日本だけに留まらず、世界へも向かっています。

最強の記録媒体を残す

国内外で注目を集め、人気を博している庵治石ですが、後継者不足であることも事実。石材業界を知ってもらうためにも、株式会社蒼島では、産地の見学などを行っています。


二宮さんは次世代へのメッセージとしてこう話します。
「危険な仕事で、肉体的にもきついけれど、何か一つの作品ができたときにはすごく達成感を感じることができます。石製品というものは作者がいなくなった後でも残り続けます。雨が降ろうが風が吹こうが全く関係なく、何百年経ってもその美しさを保つのは石製品にしかない良さであり、最強の記録媒体だと思います。自分の生きた証を形に残すことができるのは魅力的だし、興味をもってもらえたらありがたいです」

石工職人として何かできないかと常に考えていると話す二宮さん。現状に満足せず、庵治石のために新しいことに挑戦し続ける二宮さんの姿に今後も目が離せません。



株式会社蒼島
香川県高松市牟礼町牟礼3195-1
tel.087-814-3890

https://aoishima.jp

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