鉄は熱いうちに打て 讃岐鉄器/槇塚登《工房をたずねて》
March 05,2021
オキオリーブの奥に佇む“鍛冶屋”の工房。鍛造のためのとっておきの場所
高松市の南、西植田町に広がるオリーブ畑。その奥に薄いブルーの小屋があります。
「讃岐鉄器」の名で鉄の道具づくりを手掛ける槇塚登さんの工房です。
現れた槇塚さんは帆布のエプロンに革手袋、いかにも“鍛冶屋”のいでたちです。
工房の隣には、特製の焚火台をぐるりと囲むチェア。緑に囲まれた最高のロケーションで、さながら絵本の一場面のようです。
家業である槙塚鉄工所で家具や生活道具、作品づくりを続けてきた槇塚さん。
数年前より鍛造し始めたフライパンが話題となり、気兼ねなくそれらの制作に集中できる新たな工房を探していました。
そんなときに縁あって出会ったのがオキオリーブの園主・澳(おき)さん。
『使ってない小屋があるよ』と言われ訪ねてみると、槇塚さんの思い描いていた工房のイメージにぴったりでした。改装して窓枠や鉄扉を取り付け、2020年10月からここでの制作を開始しました。
鉄の鍛造はスピードが命
週に3~4日はこの工房で制作を行うという槇塚さん。
炉にくべたコークス(燃料)が燃え始めたら、後は時間との闘いです。フライパンや中華鍋の形に切り抜いた鉄板を炉に入れ、しばし待ちます。
赤く輝き始めたら、すかさず成型。
濡らしたハンマーを勢いよく振り下ろします。
カンカンカンカン…
みるみるうちに、見慣れたフライパンの形になっていきます。
「最初が肝心やね。1回目の焼きで、どれぐらい理想の形が出せるか」
一度叩いた箇所は、鉄が硬く締まっていきます。
「硬いところと軟らかいところを見分けながら、すばやく。鉄は熱いうちに打て、というけど本当にそう。スポーツだよ。体力がいるし速さも求められる」
続く2回目、3回目の火入れでは、底を平らにしたり持ち手の部分を成型したりと、細かい調整を行います。
鉄フライパンは、一生使える本当の道具
現在、「讃岐鉄器」のラインナップは20種類ほど。
手に取ってみると、一般的な鋳物の鉄フライパンよりも扱いやすい印象です。
というのも、鉄板の厚みは1.6mm。改良を重ね、使いやすいサイズとデザインにたどり着きました。
もともと鍛金を学んでいたわけではないので、つくり方はオリジナル。鉄板を鉄パイプの上に置いて内側から叩いて窪ませる製法も「こうしたらやりやすいかなって思いついた」のだとか。
使い込まれた鍛冶道具、それらを引っ掛ける特製の什器…。
槇塚さんの工房には、使いやすく改良されたり、長年育てられたりしてきた道具たちがそこかしこにあって、不思議と居心地がいいのです。
「鉄の料理道具は使う人が育てていくもの。使っているうちに表面が滑らかになって馴染んでくる。一生使える、本当の意味での道具だよ」
そんな言葉に、人間は道具を使い続けてきた生きものだということを、改めて思い出すのでした。
讃岐鉄器 槇塚 登
詳しくは IKUNAS g までお問い合わせください
香川県高松市西植田町4532 オキオリーブガーデン内