新企画【私たちの聖地、紹介します】 -「愛媛県・高茂岬」宮脇慎太郎(写真家)-
July 17,2020
この場所に初めて行ったのは偶然だった。
確か愛南町で開催されるトライアスロンの撮影に行った時だったと思う。
撮影が早く終わり時間ができたので、せっかくここまで来たのだからと足を伸ばし、
思いつきで半島の先端へと車を走らせた。
そもそも愛南町には電車や高速道路がない。
松山からも車で2時間、高松からだと4時間以上はかかるし、
高知側から回り込んでもやはり3時間半はかかる。
恐らく東京から行こうと思った時、日本で一番時間のかかる場所の一つではないだろうか。
複雑なリアス式海岸が続く宇和海の海岸線。
西海、内泊、中泊と入江に点在する集落を通り過ぎ、
安藤忠雄も訪れた石垣で有名な外泊を越えると、もう人家は無い。
野鳥に導かれるように手付かずの自然が残る森のトンネルを潜り、
何度も急なコーナーを曲がっているとやがて視界が一気に開け、
四国から意志のように突き出た高茂岬に到達する。
有名な足摺岬や室戸岬のように観光地になっている訳では無いので、
大体誰もそこにはいないし無駄な人工物も無い。
遥かに沖ノ島や九州を望む景色は絶景。夕陽の時間などは格別だ。
思いつきで行った時から私はこの場所に取り憑かれ、
それから何度もここに来たか分からない。
決して正しい方向には行っていないと感じる現代社会。
しかしそれでも世界は美しいと再確認するために、これからもこの場所を訪れるだろう。
写真・文 宮脇慎太郎(写真家)
1981年香川県高松市生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、日本出版、六本木スタジオなどを経て独立。大学在学時より国内外への旅を繰り返し、辺境を主な被写体としながら、風土の聖性を追い続けている。その活動が評価され「令和元年度香川県文化芸術新人賞」を受賞。IKUNASでは四国各地を巡りながら「LIFE SCAPE」を連載している。瀬戸内国際芸術祭2016、2019公式カメラマン。主な著書に「曙光 The Light of Iya Valley」(2015、瀬戸内人)『霧の子供たち』(2019、サウダージ・ブックス)、初のノンフィクション「ローカル・トライブ」、宇和海沿岸を撮り続けた「rias land」などを予定している。