新企画【私たちの聖地、紹介します】 -「冬の夜、剣山山頂」宮脇慎太郎(写真家)-
July 10,2020
剣山と言えば西日本第二の高峰。
そしてリフトがあるためハイヒールでも登れる手軽な百名山として有名だ。
夏山のハイシーズンとなると家族連れなどでごった返し、麓の駐車場や国道も大渋滞となる。
しかし冬の剣山、それも夜となるとそこは全くの別世界。
厚い雪に閉ざされた冬山は登山するだけでも大変で、
しかも夜となると尚更ハードルは上がる。
そんな場所へ比較的容易に行ける唯一のタイミング、それは年末年始。
実は剣山は、西日本で唯一年越しに頂上ヒュッテが営業している山。
山頂からのご来光を拝むため、全国から登山愛好家が集いビンゴ大会に紅白歌合戦鑑賞と大いに盛り上がる。年越しそばも振る舞われ、御来光の後には簡易なおせち料理が用意されたりといたせり尽せりだ。
笑い声が絶えることのない大晦日のヒュッテを抜け出し、そこから徒歩5分の無人の山頂へ登ってみると、
そこには銀河が大接近したかのような満天の星空が広がっている。
地平線には遥かに高松、徳島、高知、そして松山や岡山らしき街の灯りまで見渡すことができる。
まさしく四国の大屋根で、周囲は闇。そこだけ人がいる頂上ヒュッテはまるで宇宙コロニーのようだ。
時間の経つのも忘れ、寒さで指の感覚が無くなるまで宇宙に一番近い年の瀬を味わえる。
写真・文 宮脇慎太郎(写真家)
1981年香川県高松市生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、日本出版、六本木スタジオなどを経て独立。大学在学時より国内外への旅を繰り返し、辺境を主な被写体としながら、風土の聖性を追い続けている。その活動が評価され「令和元年度香川県文化芸術新人賞」を受賞。IKUNASでは四国各地を巡りながら「LIFE SCAPE」を連載している。瀬戸内国際芸術祭2016、2019公式カメラマン。主な著書に「曙光 The Light of Iya Valley」(2015、瀬戸内人)『霧の子供たち』(2019、サウダージ・ブックス)、初のノンフィクション「ローカル・トライブ」、宇和海沿岸を撮り続けた「rias land」などを予定している。