ものづくりの熱量を伝えること
November 24,2023
- EVENT
- 香川の産業
四国のものづくりが集い、匠の技に触れられる「つくり手の想いに触れる旅∞(ムゲン)」展。
11月24日・25日に行われる展示会を前に、2つのサテライト会場の代表が対談を行いました。
循環するものづくりを通じて地域の未来をつくる「アジサーキュラーパーク(高松市庵治町)」と、伝統工芸にふれる多世代のための場「讃岐おもちゃ美術館shop・cafe(高松市大工町、以下shop・cafe)」。
共通する部分がありつつも趣の異なる2つの場は、どのような思いで生まれ、これから何を目指していくのか。
中商事株式会社の代表・中貴史さんと株式会社tao.(タオ)の代表・久保月が語りました。
(聞き手:株式会社tao.スタッフ)
始まりは海ごみへの意識。アパレルができることとは
ー 久保
まずは、どうしてアジサーキュラーパークが生まれた(2022年11月オープン)のか、考えていたことや背景を教えてください。
ー 中
5年ぐらい前かな、海洋ごみやマイクロプラスチックへの課題意識が世界的に高まりましたよね。私も海が好きだったので、調査ボランティアやゴミ拾いなどに参加していました。当初は会社の事業と結び付けようとは思っていなかったのですが、徐々に社会全体がSDGsを標榜するようになって、そのときに「会社としてもこの課題と向き合わないといけない時代になってきた」と感じました。
もともと中商事では衣料品の卸業を営んでいましたが、調べてみるとアパレルは環境負荷が非常に大きい業界。大量につくり、買い、着られる状態でも廃棄される。そんなリニア(直線)型の経済ではなく、サークル(循環)型の仕組みをつくっていかなくてはいけない、と考えるようになりました。
しかし、結局一人・一社ではサークルにならないんですね。であれば、中商事は循環のためのハブとなろう、とアジサーキュラーパークを構想しました。イベントや企画を通して波及が生まれていくのではないかと思ったのです。
興味深かったのは、循環する仕組みを掘り下げる中で、「地域の小売店をフォローする」という問屋本来の役割と重なる部分が見えてきたこと。その原点に立ち返り、中商事は地域をよくする会社でありたいと考えています。
地域に関わる面白さって何?
ー 久保
問屋というところからスタートして、製造・小売や、ハギレや廃棄される素材を販売したりと業態も変化していますね。
ー 中
10年前に私が代表となってから、SPA(ファッション商品の企画から生産、販売までを一貫して行う業態)を始めました。社是を「ワクワクで地域の未来をつくっていく会社に」とし、地域にとって本当に必要な事業だけを残しました。地域のインフラでありたいと思っています。
久保さんはどういう経緯で雑誌「IKUNAS(イクナス)」や讃岐おもちゃ美術館shop・cafeを始めたんでしょうか。
ー 久保
私が地域と関わるようになって面白いと感じたのは、やはり人なんです。それから、その人たちの手仕事のものが含む歴史や時間。これは切り取り方次第で様々な伝え方・見せ方ができる!と思って「IKUNAS」という本を始めました。
一方で、作り手と関わる中で感じていたのは、これからどう次へとつないでいくか、という課題感。そのタイミングでちょうど子どもたちや子育て世代のために、讃岐のものづくりを伝える場ができるということになり、店舗オープンとなりました。
手元にあるものをどう伝えるか
ー 中
久保さんにお聞きしたかったのは、例えば何か工芸品を紹介するときにどう考えているのか、ということ。「ここを切り取ろう」「こう見せると面白そう」という感覚なのでしょうか?
ー 久保
tao.はグラフィックデザインがベースの会社なので、自ずとデザイナー的視点、つまり「同じ情報を他とどう違う形で見せるか」というクセが身についていると思います。スタッフ各々の嗅覚というか、感度のようなものですね。
ー 中
なるほど。今私たちが廃材を販売しているのも似たようなところがあって、誰かにとって要らないものでも、違う人から見れば価値あるものに変わると思っているんです。そのように、角度を変えることで価値が生まれること、私は循環思考と呼んでいますが、それは伝統工芸や地域にも同じことが言えるのかなと思っています。
あと、おもちゃと工芸、ということで思い出したのが折り紙のこと。折り紙って一枚の紙からどんな形にもなって、まさに一人ひとりの角度・視点によって違うものが生み出されれますよね。完成したものを出さない楽しさってもっとあるんじゃないかな。そうした余白のあるおもちゃはまだ少ないんじゃないでしょうか。
ー 久保
例えば職人さんの工房に行くと、クルクルっとなった木の削りくずがたくさん落ちている。それってビヨンと伸びるな、とか良い香りがするな、とか、五感に訴えかけてきて面白いんですね。「自分で価値を見出す」ということです。そういった素材を集めて子どもたちと何かできないかな、というのはshop・cafeを始めた当初から思っています。だからこそ、アジサーキュラーパークでいろいろと廃材を売っているのはいいなぁ、私がやりたかったことを実現されているなぁ、と思っています。
ものづくりの熱量の伝え方
ー 久保
「IKUNAS」は2006年から始まり、その後掲載商品などを展示・販売するギャラリーもオープンしたのですが(現在は讃岐おもちゃ美術館shop)、うちで扱っていたのは「作品」ではなく「商品」。商品は使う人にとっての機能ということが考えられているんですね。だからこそ、場を持つことでお客さんからのニーズを職人さんに素直に伝えられると思いました。例えば職人さんが納品に来られたときに「お客さんがこう言ってましたよ」と自然にフィードバックができる。あるときは職人さんが何人も集って発想を出し合う実験場みたいにもなったり。
ー 中
現場を見るということもとても良いですよね。今回の展示会にあたり宮崎椅子製作所に見学に行きましたが、話を聞いて現物を見ると「いいな!」と。やっぱり欲しくなります(笑)。
ー 久保
ものを通して伝える人はカッコいいですよね!
ー 中
この熱量をこの場所でどう見せるのがいいんだろう、と頭を悩ませました。本当は、職人さんに来ていただくのが一番かもしれませんが。
ー 久保
職人さんの肉声とかね。一方で、一生懸命に良いものをつくるけど口下手だ、という人もいるかもしれない。姿を見てもらうとか、うまく切り取るとか、それはこちら側に課された役割ですね。今回の展示会は、またやりたいですね。
ー 中
そうですね。同じメンバーで、例えば見せ方を変えたらどう反応が変わるか?職人さんを集めたトークショーとか。
あと、もっと素材そのものにスポットを当ててもいいのかな、とも思います。各素材を深掘りしてそこに色々な商品がぶら下がっているというような紹介の仕方とか。色々な角度から考えることに挑戦してみたいですね。
2つのサテライト会場では、以下の商品を展示しています。また各施設のイベントで一部販売もしています。
■讃岐おもちゃ美術館shop:「育む」
高松市大工町8-1
10:00~17:30
https://www.ikunas.com/view/page/stm
■アジサーキュラーパーク:「循環を感じる」
高松市庵治町丸山6391-19
11:00~17:00
体感型イベント/つくり手の想いに触れる旅 ∞
開催日時: 2023年11月24日(金)~25日(土)10:00 – 16:00
開催場所:
メイン会場 (テーマ)つくり手の想いに触れる
瀬戸内リゾート ベッセルおおち 香川県東かがわ市馬篠1200
サテライト会場1 (テーマ)育む
讃岐おもちゃ美術館shop・cafe 香川県高松市大工町8-1
サテライト会場2 (テーマ)循環を感じる
アジサーキュラーパーク 香川県高松市庵治町丸山6391-19
どの会場も参加費無料・予約不要でお気軽にお立ち寄りいただけます。
主催: 四国経済産業局
運営主体: 株式会社パソナJOBHUB
協力:株式会社tao.