『工房をたずねて』静かな色をたたえた手まりの「糸の美しさ」

October 22,2019

  • 工房をたずねて
  • 香川の伝統工芸

伝統工芸士 曽川満里子

讃岐の手まりは江戸時代。主に農閑期の女性の手仕事としてはじまり、今に伝えられている。砂糖、塩とあわせて「讃岐三白」と呼ばれた木綿の糸を草木で染め、伝統的な模様をかがった手まりは、「讃岐かがり手まり」として、1987年香川県伝統的工芸品の指定を受けた。その技法を受け継ぐ伝統工芸士の一人が、三豊市在住の曽川満里子さんだ。

約30年前に手まりと出会った曽川さんが何より魅かれたのは、静かな色をたたえた「糸の美しさ」。当時はまだ技法なども確立されておらず、人伝えや文献を頼りに、手探りでまりを作っていた。「木綿の手触りや染めた時の色が時間とともに変化していく様を見るのが好き」と曽川さん。同じ材料を使っても育った環境や季節、干した時の温度、湿度により糸は全て違う表情に染まり、ゆっくりと色を変えていく。その様子を「糸が居場所を見つけて落ち着いていく」と、曽川さんは表現する。

手まりの作り方はとてもシンプル。もみ殻を和紙で包んだ芯に、木綿糸をぐるぐると巻いて、土台のまりを作る。その上に「柱」と呼ばれる基本線を糸で引き、描きたい模様に沿ってかがっていく。まんまるに糸を巻く作業だけでも難しそうだが、「1本ずつ違う角度に巻いていったら自然と球体になる。人の手ってそうなるようにできてるのよ」と、曽川さんは笑う。基本の模様は菊かがりや升かがり、麻の葉など古典的な柄を中心に十数種類。同じ模様でも糸の選び方や組み合わせで、十人十色の手まりになるという。

手まりと真摯に向き合ううち、新たな縁に恵まれた。近所の気の合った仲間と共同で糸を染めるようになり、展示会を開くと少しずつ注文が入るようになった。明るい色の糸や、新柄にも挑戦した。桜や鶴、藍の手まりなど、日本的なモチーフは海外へのお土産としても喜ばれている。

2009年、伝統工芸士に認定されてからは、讃岐の手まりを伝える活動にも取り組み、地元の小・中学校で講座を受け持っている。「子どもは自分の中から欲しい色をサッと選ぶ。時には大人が想像できないような組み合わせもあって楽しいですよ」。IKUNAS g (イクナスギャラリー)でも手まりのワークショップを開いている(要お問い合わせ)。
「手まりを通じて自分の居場所を見つけてほしいと思っています。かつての私がそうだったように」。

手まりとめぐり合い、表現することの喜びを知った曽川さんは、今日もまるい心で手まりと向き合う。次はどこへ転がっていくのだろう。それはたぶん「まりが転がりたいところへ」だ。(web store過去記事より)

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