時を重ねてきた分だけ想いが宿る、昭和生まれのお店。 長く静かに愛されてきた「懐かしのおやつ」に会いに行きましょう。

September 29,2017

  • 雑誌IKUNAS

『懐かしのおやつ』の企画が決まったときからどうしても行きたいと思っていたお店が『伊藤製パン』でした。5年ほど前に一度訪ねて、店の雰囲気とパンのおいしさがずっと記憶に残っていたからです。

瀬戸内海に面し、かつて海運で栄えた港町・香川県仁尾町。伊藤製パンは、この街に初めてできたパン屋さんです。創業は昭和23年。イトパンの呼び名で街の人たちから、今も愛され続けています。

取材の日は、あいにくの雨でしたが、シトシトと降る雨にノスタルジックな店の雰囲気がとてもマッチしていました。私たちをやさしい笑顔で出迎えてくれたのが、店主の伊藤千鶴子さん(77歳)です。伊藤製パンの2代目に嫁いできた千鶴子さん、9年前にご主人を亡くしてからは一人でお店を切り盛りしています。

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店に入ると、重厚なガラスのショーケースに素朴で懐かしいパンが並べられていました。パッケージもどこか愛嬌があってホッとします。食パン、菓子パン、店に並ぶパンは曜日ごとに決まっていて、名物の揚げパンは毎週水曜日と土曜日につくられます。週末ともなると、揚げパンを求めて県内はもとより県外からもお客さんがやってきます。「こんな年寄りがつくるパンを買いにわざわざ遠くから来てくれるんやから、体を壊す暇もないんよ」と千鶴子さん。昭和生まれのお店に惹かれて、平成生まれの若者たちもたくさんやって来るのだといいます。

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お店の奥にある作業場には、愛用の道具たち。作業台やオーブン、パンの焼型、パンを袋詰めする機械、壊れたらもう直すことができないというような年代物たちばかり。どれもきちっと整理されていて、大切に使われてきたことが伺えました。道具たちに向かって「私の友達」といった言葉からも、千鶴子さんの人柄や、パンづくりへの姿勢が伝わってきました。
発酵棚の横にかけられた古いそろばんも現役なのだそう。私が幼い頃は、近所にそろばん塾がたくさんあって、通っている子も多くいましたが、そろばんがあるお店も今では珍しいものになってしまいましたよね。なんだか、懐かしい記憶にまで出会ってしまうような…。ここには、物語や歴史がって、何よりいろいろなものを想像させてくれます。

お店の歴史や大切に使ってきたものの話をいろいろと聞かせてくれますが、いざお店やパンの味をほめると「なんちゃ、なんちゃ」と謙遜する千鶴子さん。それがまたいい。

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Photo by Naruhito Tokumaru

「80歳までは頑張ろうかな」と千鶴子さん。

丁寧につくられていて、素朴だけれど自然のおいしさが感じられる「揚げあんぱん」
皆さんにもぜひ味わってほしい『懐かしくておいしい讃岐のおやつ』です。

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